iPaaS(アイパース)の基礎知識

iPaaS(アイパース)とは?

iPaaS(アイパース)とは、異なるシステムやアプリケーションをクラウド上で簡単に連携し、データの流れや業務フローを自動化させるためのプラットフォームのこと

iPaaS(アイパース)とは「Integration Platform as a Service」の略で、複数のアプリケーションやSaaSを統合するためのクラウド型プラットフォームです。企業が利用している様々なクラウドアプリケーションやシステム、データベースを一元管理し、連携するために利用されます。
簡単に言うと、アプリケーションやシステム同士をつなげてデータをやり取りできるようにするための「橋渡し役」のサービスと言えます。異なるソフトウェアがバラバラに動いていると、リアルタイムなデータの共有や業務の連携が難しくなりますが、iPaaSを使うと簡単にリアルタイム連携させることができるようになります。

iPaaSのメリット

iPaaSのメリットは、企業の業務効率化とコスト削減にあります。
iPaaSを利用することで、手作業によるデータ入力を自動化し、業務をスムーズに進めることができます。リアルタイムでのデータ処理と統合が可能なため、即時に正確な情報を得られ、迅速な意思決定が可能になります。

iPaaSには4つのタイプがある

iPaaSは、大きく分けると「EAI型」「ETL型」「ESB型」「テンプレート(レシピ型)」という4つのタイプに分類されます。各タイプのiPaaSは目的や用途、機能が異なります。
次章から各タイプについて詳しく解説していきます。

EAI(Enterprise Application Integration)型iPaaS

EAI型iPaaSとは

EAI(Enterprise Application Integration)とは、企業内の複数のアプリケーションやシステムをシームレスに連携させるための技術。

EAI(Enterprise Application Integration)とは、「企業内アプリケーション統合」を意味しており、企業内のさまざまなアプリケーションをつなげることで、業務プロセスの自動化やデータの共有を効率的にするためのサービスです。
EAIの主な特徴として、EAIがさまざまなシステムやデータをつなぐ「ハブ」として機能するため、既存システムの開発が不要であるということと、データ連携を簡単に実現することが可能な点です。これにより、業務フローが自動化され、最新の情報に基づいた迅速な意思決定が可能になります。

例えば、営業部が使っている顧客管理システムと経理部が使っている会計ソフトがそれぞれバラバラに動いていると、データの共有が難しくなりますが、EAI型iPaaSを使うことで、これらのシステムをシームレスにつなげてデータを自動でやり取りできるようになるため、業務を大幅に効率化できます。
これにより、企業内の情報システムが一元管理され、効率的な運用が可能になります。

EAI型iPaaSのメリットとデメリット

EAI型iPaaSの導入には多くの利点がありますが、デメリットも存在します。以下に、それぞれを解説します。

メリット

効率的なデータ管理

企業内のシステム間で、自動でデータをやり取りできるため、手作業での入力ミスが減り、データの一貫性が保たれます。そのため、データの重複や誤りが減少し、効率的なデータ管理が可能になります。

業務プロセスの自動化

EAI型iPaaSは、手作業によるデータ入力や更新を自動化し、業務全体の効率を向上させます。これにより、従業員はより価値の高い業務に集中することができるようになります。

リアルタイムな情報アクセス

リアルタイムでデータを統合し、常に最新のデータにアクセスできるため、最新の情報に基づいた迅速な意思決定が可能になります。これにより、ビジネスのスピードと柔軟性が向上します。

デメリット

導入コスト

EAI型iPaaSの導入には、初期費用や運用コストがかかります。特に、大規模な企業では導入コストが高くなる傾向があります。

複雑性

システムの統合には技術的な複雑性が伴います。これにより、導入と運用には高度な技術スキルが必要となる場合があります。

依存度の増加

複数のシステムを統合することで、一つのシステムに問題が発生した場合に、他のシステムにも影響が及ぶリスクが高まります。

EAI型iPaaSが適しているケース

EAI型iPaaSが特に適しているのは、以下のようなケースです。

複数のシステムやアプリケーションを使用している企業

異なる部門やチームが複数のシステムを使用している場合、それらをシームレスに連携させることで、データの一貫性と効率性を向上させることができます。
例えば営業、経理、在庫管理など、異なる部門で使っているシステムをつなげてデータを共有したい企業に最適です。

リアルタイムデータ処理が必要な業務

リアルタイムでデータを処理し、迅速な意思決定が求められる業務において、EAI型iPaaSは非常に有効です。
例えば、金融機関や小売業では、リアルタイムでデータを処理して迅速な意思決定を行う必要があるため、EAI型iPaaSが有効です。

業務プロセスの自動化を目指す企業

手作業によるデータ処理を自動化し、業務効率を向上させたい企業にとって、EAI型iPaaSは最適です。

ETL(Extract, Transform, Load)型iPaaS

ETL型iPaaSとは

ETL(Extract, Transform, Load)型iPaaSは、データの抽出、変換、ロードを行うためのプラットフォーム。大規模なデータ処理やデータウェアハウスの統合に最適。

ETL(Extract, Transform, Load)型iPaaSは、さまざまなデータソースからデータを抽出(Extract)し、目的に応じて変換(Transform)し、そしてBIツールやデータウェアハウスなどのシステムへ書き出し=ロード(Load)するためのプラットフォームです。

簡単に言うと、異なるデータソースからデータを集めて、必要な形に整え・加工して、目的の場所に移すためのサービスです。主に、企業が持つ様々なデータを分析したり集計したりするために使用されます。

EAIのように単純にシステム間でデータ連携するのではなく、データの加工や変換をすべて行なってデータを整えてから格納するのがETLです。
また、ETLは通常バッチ処理で行われるため、定期的に大量のデータを一括で処理することを得意としています。

ETL型iPaaSのメリットとデメリット

メリット

データ統合の効率化

ETL型iPaaSは、異なるデータソースからデータを自動的に集めて統合します。これにより、手動でのデータ集計作業が不要になり、効率が大幅に向上します。

データの品質向上

データのクレンジングや変換機能により、重複やエラーのない高品質なデータを維持できます。

柔軟なデータ変換

ビジネスニーズに応じてデータを変換し、必要な形式で保存・利用できるため、データ活用の幅が広がります。

デメリット

導入コスト

ETL型iPaaSの導入には初期費用がかかります。また、データの量や複雑さに応じてコストが増加する可能性があります。

技術的な知識が必要

ETLプロセスの設計・管理には、データエンジニアリングの知識が求められます。複雑なデータ変換やロードの設定には、高度な技術が必要です。

パフォーマンスの問題

大量のデータを扱う場合、データ処理のパフォーマンスが低下することがあります。特にリアルタイム処理には限界があります。

ETL型iPaaSが適しているケース

さまざまなデータソースを持つ企業

企業内外の複数のデータソース(例えば、CRMシステム、ERPシステム、マーケティングツールなど)からデータを集めて、分析や集計加工後に別システムへの反映などの特定のデータ加工が必要な場合によく用いられます。

定期的なデータ処理が必要な企業

毎日、毎週、毎月など、定期的に大量のデータを処理する必要がある場合に有効です。
ETLプロセスを自動化することで、定期的なデータ処理が効率化されます。

データのクレンジングや変換が必要な企業

データの品質を向上させるために、データのクレンジングや変換が必要な企業に適しています。例えば、異なるフォーマットの顧客データを統一する場合、ETL型iPaaSが役立ちます。

ESB(Enterprise Service Bus)型iPaaS

ESB型iPaaSとは

ESB(Enterprise Service Bus)とは、企業内のさまざまなアプリケーションやシステムを統合し、データの送受信を仲介するためのミドルウェア。大規模なシステム環境向け。

ESB(Enterprise Service Bus)型iPaaSは、企業内の複数のアプリケーションやシステムを相互に接続し、データのやり取りを効率的に行うためのプラットフォームです。

簡単に言うと、異なるソフトウェアが互いに情報を交換できるようにするための「バス(通信路)」を提供するというものです。ESBの特徴は、各アプリケーションが中央のバスを介して通信するため、システム間の連携がシンプルで柔軟に行える点です。

ESBは、各アプリケーションが独立して動作しながらも、中央のバスを介して連携することを可能にし、これにより異なるシステム間のデータ交換や業務プロセスの統合が容易になります。スケーラビリティに優れていますが、初期導入や管理にコストと専門知識が必要です。

ESB型iPaaSのメリットとデメリット

メリット

システムの柔軟性向上

中央のバスを通じて異なるシステムやアプリケーション間を柔軟に接続できるため、システム間の連携がスムーズに行えます。

再利用性の向上

一度作成した統合コンポーネントを再利用することで、開発コストと時間を節約できます。

拡張性

新しいアプリケーションやサービスを追加する際にも、既存のシステムに影響を与えることなく統合し拡張させることが可能です。そのため企業の成長に合わせて柔軟に対応できるメリットがあります。

デメリット

複雑性の増加

ESBの設定や管理は高度な技術スキルを必要とし、システム全体の複雑性が増す可能性があります。

導入コスト

ESBの導入には初期費用や運用コストがかかります。特に、規模が大きい企業では導入費用が高くなることがあります。

パフォーマンスの問題

大量のデータを処理する場合、ESBがボトルネックとなり、パフォーマンスが低下するリスクがあります。

ESB型iPaaSが適しているケース

複雑なシステム統合が必要な企業

複数の異なるシステムやアプリケーションが存在し、それらを効率的に連携させたい企業に最適です。

再利用性を重視する企業

統合コンポーネントの再利用が可能なため、開発効率を向上させたい企業に向いています。

段階的なシステム拡張を行う企業

新しいシステムやサービスを追加する予定がある企業にとって、既存システムに影響を与えずに拡張が可能なESB型iPaaSは適しています。

テンプレート(レシピ)型iPaaS

テンプレート(レシピ)型iPaaSとは

テンプレート(レシピ)型iPaaSは、事前に用意されているテンプレートを利用することで簡単にデータ連携ができるプラットフォーム。ノーコード・ローコードが主流。

テンプレート(レシピ)型iPaaSとは、事前に用意されたテンプレートやレシピを利用することで、データ統合やシステム連携が簡単にできるクラウドベースの統合プラットフォームのことです。

ユーザーはあらかじめフローやシナリオが設定されているテンプレートを使用することで、迅速かつ効率的にシステム統合を実現できます。
例えば、Salesforceとkintoneを連携させるためのテンプレートがあれば、ユーザーはそれを選んで設定するだけで簡単に双方のシステムを連携することができます。
Salesforceが更新されたら、kintoneが登録されたら、メールが届いたらなど、さまざまなイベントをトリガーにすることで、自動で業務が実行されます。

テンプレート型iPaaSの最大の特徴はノーコード・ローコードで設定できる点で、専門知識がないユーザーでも運用することが可能なため、近年利用者数が増加しています。
また、無償で利用できるフリープランが展開されていたり、低価格だったりと安価なサービスが多いです。

テンプレート(レシピ)型iPaaSのメリットとデメリット

メリット

効率性の向上

複雑な統合プロセスをテンプレートを使って簡単に実現できるため、時間とコストの削減が可能です。

迅速な実装

事前構築されたテンプレートを使用することで、迅速なシステム統合が可能になり、ビジネスのスピードを向上させます。

ノーコード/ローコード

ノーコード/ローコード環境により、ユーザーにプログラミングなどの技術的な専門知識がなくても管理できます。

デメリット

テンプレートの制約

事前構築されたテンプレートに依存するため、特定のニーズに完全に合わない場合やテンプレートが対応していないシナリオには、自分自身での設定やカスタマイズが必要です。

テンプレート(レシピ)型iPaaSが適しているケース

SaaS事業者の自社SaaSと外部SaaSの連携

SaaS事業者が自社で提供するSaaSと他の外部SaaSを連携させるために利用できます。これにより、顧客データや取引データが外部システムと自動的に共有され、総合的なサービスを提供できます。

クラウドサービス同士での定型業務の自動化

テンプレート(レシピ)型iPaaSは、クラウドサービス同士の定型業務の自動化に最適です。例えば、MA(マーケティングオートメーション)ツールとSFA/CRMシステムの連携により、顧客データの同期やリードの追加を自動化できます。
その他、顧客からきたメールの内容を生成AIが整形し、SFA/CRMシステムに登録するなどさまざまな定型業務を効率化し、手作業によるミスの削減や、スピードと精度が向上します。

各iPaaSの機能や用途の違いを比較

EAI/ETL/ESB/テンプレート型iPaaSそれぞれの用途や目的、特徴、メリット、企業規模やコストなどさまざまな項目を比較した表を作成してまとめました。

swipe
EAI ETL ESB テンプレート型
用途や目的 アプリケーション連携と業務プロセスの自動化 データの抽出、変換、ロード システム連携とデータ交換の効率化 テンプレートを利用したデータ統合と連携
特徴 ・リアルタイムデータ連携
・プロトコル変換
・バッチ処理
・データクレンジング
・変換
・中央のバスを利用
・メッセージングサービス
・事前構築されたテンプレート
・ノーコード/ローコード
メリット ・データの一貫性
・リアルタイム意思決定支援
・異なるデータソースの統合
・高品質データ
・柔軟なシステム連携
・新しいシステム追加
・迅速な構築
・プログラミング不要
企業規模 大企業 中小企業~大企業 大企業 中小企業~大企業
難易度
拡張性
実装速度 長い 短い
導入コスト 低~中
主なサービス ・MuleSoft
・IBM App Connect
・ASTERIA Warp
・Talend Data Integration
・Informatica PowerCenter
・Microsoft Azure Data Factory
・Red Hat Fuse
・IBM
・Integration Bus(IIB)
・Oracle Service Bus
・Zapier
・Workato
・JENKA

ビジネスニーズに合わせたiPaaSの選び方

EAI、ETL、ESB、テンプレート型iPaaSはそれぞれ異なるニーズに応じて使い分けるべき統合プラットフォームです。
EAIはリアルタイムデータ連携が重要な場合、ETLは大量データの定期的な処理が必要な場合、ESBは柔軟なシステム拡張が求められる場合、テンプレート型はプログラミング知識や専門的な技術を持たないユーザーが利用したい場合に最適です。
企業の具体的な要件に基づいて、最適なプラットフォームを選択することが重要です。

iPaaSの種類まとめ

iPaaS(Integration Platform as a Service)は、企業がクラウドサービスやアプリケーションをシームレスに統合するためのプラットフォームで、iPaaSの種類には主にEAI型、ETL型、ESB型、テンプレート型があります。

EAI型iPaaSはリアルタイムでのデータ連携とプロトコル変換に強みがあり、ビジネスプロセスの自動化を支援します。
ETL型iPaaSはデータの抽出、変換、ロードを中心に、バッチ処理を自動化し、データウェアハウスへの統合を容易にします。
ESB型iPaaSは中央のバスを利用して異なるシステム間のデータを効率的にやり取りし、複雑なビジネスプロセスの統合をサポートします。
テンプレート型iPaaSは事前構築されたテンプレートを使用し、迅速かつ簡単にシステムを統合できるノーコード/ローコード環境を提供します。
データ連携に興味がある方は、自社のニーズに合ったiPaaSを検討してみてください。

複雑なビジネスプロセスの統合をサポートします。
テンプレート型iPaaSは事前構築されたテンプレートを使用し、迅速かつ簡単にシステムを統合できるノーコード/ローコード環境を提供します。
データ連携に興味がある方は、自社のニーズに合ったiPaaSを検討してみてください。

iPaaSの進化と展望

iPaaSは、まだまだ世の中の認知度は低いものの、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める企業にとって不可欠なツールとなりつつあります。

従来の統合プラットフォームからさらに進化し、機械学習やAI技術を取り入れることで、より高度なデータ分析やプロセスの自動化を実現しています。AIによるデータ解析は、ビジネスインサイトの提供や予測分析を可能にし、企業の意思決定をサポートします。また、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)との連携により、定型業務の自動化が進み、業務効率が大幅に向上していくでしょう。